ドクターサーチ

睡眠のリテラシー 【第79回】

「ロハス・メディカル」誌面より|2017年9月号(vol.144)掲載


 今年6月末に厚生労働省から「過労死等の労災補償状況」が公表されました。過重労働に伴う脳・心臓疾患の事案と共に、精神障害(自殺を含む)の事案について、請求や認定に関する情報が示されています。
 仕事に伴う強いストレスなどによって精神障害を発病したとして労災請求された事案に着目すると、平成28年度では1586件で、過去最高になりました。この内、業務上として認められたのは498件(約3割)に上り、その中に84件の自殺・未遂も含まれるという深刻な現状でした。
 仕事による強いストレスと言えば、残業や休日に働いた時間が月あたり100時間を超えるような過剰に長い労働が思い浮かびます。この要因と共に、職場で経験する様々な出来事によっても精神障害は起こりやすくなります。
 発病した精神障害が業務上であるか否かを判定するために、発病前概ね6カ月の間に起こった出来事が詳しく調べられます。まず2つの特別な出来事があったかどうかが問われます。具体的には、本人や関係者の生死に関わるような業務上の病気やケガなどと、発病直前の1カ月に160時間を超える時間外労働です。こうした出来事があれば、業務上として認定される条件を満たします。
 特別な出来事がなかった場合、のべ36個にわたる具体的な出来事の有無が問われます。この中には次の6つの型があります--①事故や災害の体験、②仕事の失敗、過重な責任の発生など、③仕事の量・質、④役割・地位の変化など、⑤対人関係、⑥セクシュアルハラスメント。
 それぞれの出来事は精神的なダメージの強さに応じて、弱・中・強に評価されます。「強」であれば、業務上と認められる条件になります。
 「強」と見なされる例を挙げてみましょう。①は仕事上の事故による長期間の入院や悲惨な事故の目撃などです。②は倒産に至るような重大なミス、会社で起きた大きな事故の責任、仕事に関連した違法行為の強要、到底達成できないような過大なノルマ、顧客などからの無理な注文や重大なクレームへの対応です。
 ③は仕事量の急増や仕事内容の大きな変更です。④は退職の強要、左遷、単独業務、差別です。⑤は人格や人間性を否定するような言動(嫌がらせ、いじめ、暴行)、上司との大きな対立です。⑥は文字通り、やってはいけないことです。
 これら一連の例は、社会人として経験したくない出来事であるばかりか、そもそも起きてはならない出来事に見えます。何より、いずれの出来事も安眠を妨害するのは確かです。ぐっすり眠れないと精神が不調になるのは当たり前です。
 もし長時間労働で睡眠を充分にとれない状況があって、さらに酷い出来事が起きたらどのような結末になるかはおおよそ分かります。
 眠りが壊れ、心が死ぬような出来事を職場から少しでも減らしていかねばなりません。

高橋正也(たかはし・まさや)
独立行政法人労働者健康安全機構 労働安全衛生総合研究所 産業疫学研究グループ部長
1990年東京学芸大学教育学部卒業。以来、仕事のスケジュールと睡眠問題に関する研究に従事。2001年、米国ハーバード大学医学部留学。

※情報は基本的に「ロハス・メディカル」本誌発行時点のものを掲載しております。特に監修者の肩書などは、変わっている可能性があります。