ドクターサーチ

睡眠のリテラシー 【第76回】

「ロハス・メディカル」誌面より|2017年6月号(vol.141)掲載


 ぐっすり眠りたいと皆が願っています。熟睡できた朝はたしかに爽快に感じます。ところが、毎日そういうわけにはいきません。仕事であれ、私生活であれ、悩みやストレスは少なくないので、当然かもしれません。

 よく眠れない晩がたまにあっても仕方ありませんが、不眠が長期にわたって続くと、健康に望ましくない影響が現れます。その一つが脳や心臓の血管に起こる病気です。

 不眠とこうした病気との関連は以前より調べられてきました。ただ、調査の方法や条件などが違うので、得られた結果を一概には比べられません。そこで、しっかりとした基準で選ばれた優れた調査を選び、全体として関連の有無を見極める研究法があります。

 この方法を使って、不眠と脳・心臓血管疾患に関する論文を中国の研究者が詳しく分析しました。
論文を選ぶ基準は次の通りでした―
①不眠とその後の病気との関連を追跡的に調べるデザイン、②参加者は18歳超、③追跡期間は2年超、④不眠の症状としては寝つきの悪さ、中途覚醒、早朝覚醒、起床時疲労感の四つ、⑤脳・心臓血管の病気は急性心筋梗塞、心不全、脳卒中などで、これらの発生や死亡を検討。

 多数の論文の中から、最終的に15編の論文が残りました。国別ではスウェーデンやドイツなど欧州が11編、米国が3編、日本が1編でした。追跡期間は3年から30年、対象者数は700人から5万人に及び、年齢も20歳から最高101歳という範囲でした。

 不眠症状のない群に比べて、脳・心臓血管の病気になる確率は寝つき悪い群で27%、中途覚醒のある群で11%、早朝覚醒のある群で2%、起床時疲労感のある群で18%ほど増えることが分かりました。

 男女別にみると、女性の方がやや高い確率でした。欧州とそれ以外とで分けても、差は認められませんでした。

 眠りの質が悪くなると、なぜ脳や心臓の血管を損なうのかについては、いくつもの説があります。例えば、不眠に伴って自律神経系や内分泌系が変化し、血圧は上がりやすく、血管は詰まりやすくなるというものです。

 男性より女性で不眠の影響が大きく現れるのは、そもそも女性に不眠が多いことやホルモンの変化などから説明できそうです。

 メカニズムはどうあれ、眠りの内容が望ましい状態でないわけですから、改善が必要になります。まずは熟眠を妨げる要因を洗い出し、できるだけ修正することです。その要因は多種多様になるので、それぞれに適した対応が求められます。例えば金銭問題で悩んで眠れないのに、寝具やカーテンを上物に変えてもあまり意味はないでしょう。

 あるいは睡眠中に呼吸が頻繁に止まる病気(睡眠時無呼吸症候群)など睡眠に関連した病気のせいで眠りが崩れていたら、そちらへの適切な治療が大事になります。

 いずれにしても、不眠で脳や心臓が「悲鳴」を上げないうちの対処が肝心です。

高橋正也(たかはし・まさや)
独立行政法人労働者健康安全機構 労働安全衛生総合研究所 産業疫学研究グループ部長
1990年東京学芸大学教育学部卒業。以来、仕事のスケジュールと睡眠問題に関する研究に従事。2001年、米国ハーバード大学医学部留学。

※情報は基本的に「ロハス・メディカル」本誌発行時点のものを掲載しております。特に監修者の肩書などは、変わっている可能性があります。